洗脳された脳

「洗脳されていない脳なんて、この世の中に存在するの?どうせなら、その世界に最も適した狂い方で、発狂するのが一番楽なのに」

コンビニ人間 (文春文庫)で芥川賞を受賞した村田沙耶香の小説「消滅世界 (河出文庫)」からの引用です。

小説の内容を書くとネタバレしてしまうので、簡単に言うと「世界が消滅する」物語です。

物語の要所要所に自分がハッとさせられる表現がちりばめられていて、結構やられました。

冒頭の洗脳についてもまさにその通りだなと思います。

人間が今まで生き残ってこれたのは、洗脳がしやすかったことも一因ではないだろうか。

それに気づいた頭いいの人たちが、人間を洗脳し、文明を築き上げていきました。それは今も続いています。

もちろん、僕もあなたも洗脳されています。

気が付いていないかもしれませんが、洗脳されないとこの世の中を生きていけない仕組みになっているのです。

まずその大前提に気が付く必要があります。

そもそも教育もある種の洗脳です。

社畜量産工場みたいなもので、画一的な価値観、指示通りに任務を遂行する能力、コピーの正確性などの養成、向上を図るのが目的です。

その教育を受けて、社畜の卵がめでたく世の中に出荷されていくのです。

就活とかもよく考えたら変だな、ありゃ。

これは日本という国を支えるために仕方のなかったのかもしれません。

もちろん中には僕のような不良品が出てきます。

黙って世の中の流れに身を任せていればいいものの、洗脳が完璧じゃないから、この社会のあらゆる仕組みや価値観につっかかっていく。

ん、何かおかしくないか?

腐臭漂う無機質な動く箱に、毎朝同じ時間に詰め込まれて、同じ場所に行く。

何なんだこのプレーは。

そして、謎のお告げを聞いて、そのお告げ通りに儀式を執り行う。

これ40年間続ける。

だから、いったい何なんだこのプレーは。

おかしいでしょ。

だけど「それおかしい、ぼくやめる」と言うともうそれは大変なお祭り騒ぎです。

えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。

「え?もったいなくない?」

「次の仕事は?」

「生活は大丈夫?」

「社会的信用を失うよ?」

「辞めて何するの?」

だから、君たちは正常なんだ、良品なんだよ。

そして僕は絶叫する。

「ボランティィィィィア」

こんな世の中おかしいよ、と思う人はたくさんいるでしょう。そう思うのはあなたに組み込まれた人間の本能のせいかもしれません。

「……あんたはそういうところがあったわ、小さいころからね。世界の仕組みにあっさりと適応して器用にうまくやっていけるのよ、上辺ではね。私は駄目よ。最初に身体に焼き付いた本能が、いつまで経っても消えない。絶対に消えない。私の中で燃えているのよ」

消滅世界 (河出文庫)

私も駄目よ。

その本能を制御するために私たちは子供のころから洗脳されてきました。

辞めたいのに、辞められない。なぜか。

それは洗脳という呪いをかけられているから。

その呪い、自分で解くしかないよ。

あなたの回りも洗脳されてるからくれぐれも気をつけてね。

「組織に属さないと困るよ、寂しいよ、みんなと同じの方が安心だよ、ほら、おいしいえさだよ。」

「ボランティィィィィア」

あぶねえ。気を抜くと“正常”という異常が忍び込んでくるぜ。

「どの世界に行っても完璧に正常な自分のことを考えると、おかしくなりそうなの。世界で一番恐ろしい発狂は、正常だわ。そう思わない?」

「お母さん、私、怖いの。どこまでも“正常”が追いかけてくるの。ちゃんと異常でいたいのに。どこまでも追って来て、私はどの世界でも正常な私になってしまうの」

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)