まさか同じ大学の同じ学科の人と最終面接で一緒になるとは思ってもみませんでした。
あらすじ
2007年、就活を始めた牛は、唯一受験した新聞社の選考に落ちた後、海外で働くことを志し、半導体の海外営業の最終面接に臨む。その面接で偶然一緒になった就活生の自己紹介を聞いてびっくり仰天したのだった。
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最終面接で一緒になった彼女(Xさん)は、同じ大学の同じ学科でした。それを聞いた私はびっくりたまげました。
同じ大学なら一回は会ったことくらいはあるんじゃないか、と皆さんは思うかもしれません。
しかし、彼女は留学していたので1年先輩だったのと、私は訳あって大学での友人が極めて少なかったので、交友関係も広くありませんでした。
何はともあれ、新幹線に乗ってやってきたハンドウタイの会社の最終面接で会うのは奇跡のようなものです。
今振り返ってみれば、海外営業という枠で、大学と学科がある程度絞られたらそういう可能性もあるだろうな、とは思いました。
最終面接の内容はほとんど記憶がありません。
唯一覚えているのは「自分をモノに喩えるとなんですか?」的な質問に対して、
スポンジです。
と答えた記憶がかすかにあります。
伸縮自在で柔軟性があり、必要なものをどんどん吸い込んでいく、ということを言いたかったのでしょう。
面接した海外本部長からは、
「悪いこともどんどん吸収しちゃうのかな?ふぉっふぉっふぉっ」
みたいな返しがあって、寡黙だった本部長の笑顔が印象に残りました。
これはいい反応なのか、悪い反応なのか。。
面接では、人事部長が質問をして、本部長は黙ってそれを聞いている、といった感じです。
静かに椅子に座っていて、ほとんど喋ることはなかったように記憶しています。
全く半導体のことを知らなかった私ですが、志望理由として、以下のようなことを言ったような記憶があります。
- 世界を一変させる半導体の未来に興味を持ち、それに携わる仕事をしたいと思った(嘘)
- 外国語を海外営業で活かせる
- (本音:お金もらいながら海外生活を楽しみたい)
こうして無事に?最終面接も終わりました。
手応えはわかりませんが、やることはやったし、これで就活も(おそらく)終わりだろう、ということで、ひとまずホッとしました。
履歴書もエントリーシートも面接ともこれでおさらばです。
心なしか世界が少しだけ明るくなったような気がしました。
新幹線に乗って、はるばる遠方まで来たのだから、記念に少し観光でもしてから帰ることにしよう。
面接は午後だったので、時間はありませんが、終わった後に一箇所くらいは観光名所に行けると思っていたのです。
しかし、ここで一つの問題が急浮上します。
同じ大学の同じ学科のXさんとの奇跡的な遭遇。
これをどう対処すれば良いのか、私は最終面接以上に脳みそをフル回転させ始めました。
「一緒に観光でもしませんか?」
とXさんに思い切って声をかけてみるべきかどうか。
それとも
「ありがとうございました、さようなら」
とあっさり別れるべきか。
私たちは微妙な立場に置かれています。
そもそもたまたま就活で一緒になった相手にいきなり「観光でもしませんか?」は、やりすぎなのではないか。
大学が一緒だから今後キャンパスで会うかもしれないし、もし気まずい雰囲気になったらやばいです。
「ほらほら、あの人を見て。就活の最終面接でたまたま一緒になっただけなのに、その後観光に誘ってきたの。気持ち悪くない?」
という風にお友達に囁かれたら一巻の終わりです。
ただでさえ友達がいないのに、もっといなくなったらどうすればよいのでしょうか。
万が一友達になれたら素晴らしいのですが、その後の結果のことを考えるとちょっとまた微妙な展開が待ち受けています。
向こうは合格して、こちらが不合格。
逆にこちらが合格で、向こうが不合格。
この対処もなかなか複雑です。
しかし、そんなことを今考えても仕方ありません。
ここで出会えたのも何かの縁だと思い、私はXさんを観光に誘ってみることにしました。
ぼくは普段そんな大胆なことはしない。もともと人見知りする性格なのだ(そしてもちろん臆病でもある)。でもきみとそこで別れわかれになって、もう二度と会えないかもしれないと考えると、それは大きく間違ったこと、まったく公正ではないことのように感じられる。だから勇気をかき集め、思い切った行動に出る。
「あ、あ、あ、あの、、も、も、もし、よかったらどぅえ、い、いいんですけど、、じかん、があったら、い、い、いっしょ、に、かんこうにでもいきませんか、、、?」
と僕はいう。
「わたしも、ちょうど観光したいと思ってたんです」
そして何度か小さく頷く、僕を励ますように。