「ねぇ、牛くん、話したいことがあるの」
あらすじ
2007年、就活を始めた牛は、唯一受験した新聞社の選考に落ちて挫折。その後海外で働くことを志し、海外営業職の内定を得た。駐在の決め手となる中国語を一生懸命勉強したのは、大学1年の時に出会ったTさんのおかげだったが、牛が大学を変え、Tさんが留学へ行くと、状況は思わぬ方向へと進み始める。その時のお話。
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3年次編入した私は多忙を極めていました。普通の大学3年生と比べて単位数が少ないので、それを補うために多くの授業を取ったからです。
授業のレベルも高くついていくのが大変でした。また、1年生と混じって体育の授業を受けたり、総合科目で日本国憲法を学んだりもしました。まるで1年生のような生活を送っていたと記憶しています。
普通の大学3年生なら、単位の大半は取り終わり、必修科目と自分の興味がある授業だけです。就活の準備やバイトなど充実した生活を送っていたことでしょう。
私が就活に出遅れたのも編入が少なからず影響していました。私はそもそもスタートが出遅れたのと受けた会社が圧倒的に少なかったのでまだマシですが、他の編入生の就活は基本的に大変そうでした。
Tさんはその年に中国へ留学へ行っていたので、連絡を頻繁に取れませんでした。
当時も何かしらの連絡手段はあったと思いますが、LINEやWechatなんかないし、連絡を取るとすればメールです。今のように簡単に海外と電話ができるツールもありません。
そんな中、久しぶりにTさんが連絡がありました。おそらく留学が終わった後のタイミングだったと思います。
「牛くん、久しぶり。ちょっと話したいことがあるの、、」
嫌な予感がしました。
というか、十分覚悟をしていました。
大学が変わり、留学して物理的な距離があると、心の距離も離れていってしまう。
よく聞く話です。
留学先で出会った同じ大学のイケメンとか現地で仲良くなった中国人か、、なんてシナリオも考えられます。
当時の私は忙しく、その配慮が疎かになっていました。
「あのね、ちょっと言いづらいんだけど、、」
「うん、、」
「実は、、他に好きな人がいて、、」
「う、うん、、」
「牛くんにはちゃんと伝えておかないといけないと思って連絡したの、、」
「う、うん、、」
「私たち、今のままだと、もう付き合ってる意味、あんまないよね、、」
「う、うん、、?」
「だから、牛くんとは今までみたいに友達の関係でいたいの、、」
私の予想が現実のものとなりました。
いろいろな質問が頭の中を高速で飛び交っていて何から話したらよいかわかりませんでしたが、とにかく気になるのは相手です。
「ちなみに、相手って、どこの人か聞いてもいい?」
「う、うん、、、」
「留学先で出会った人?」
「ううん」
「じゃあ同じ大学の人?」
「ううん」
「もしかしてジャイアン?」
※参照:私は以前どんな仕事をしていたのか(第11回) - 三十七歳の日記
「ううん」
「え、じゃあ誰なの?」
「、、電車で声かけられたの、、」
「え、知らない人から?」
「うん、中国語の本読んでたら声かけられて」
「それで?」
「自分も中国語勉強してるって言って話が合って、、」
「大学生?」
「いや、もう仕事してる人」
「社会人?」
「うん、仕事で中国語使ってるらしいの、、」
「それってさぁ、、ナンパじゃないの」
「うん、そうとも言えるかもしれない、、」
Sometimes life hits you in the head with a brick.
私は衝撃を受けました。
まさか電車で声をかけられた社会人に彼女を奪われてしまうとは。。
当時この本はまだ存在してなかったはずだ。
それ以降の会話はもうほとんど覚えていませんが、Tさんからの要望通り、友達の関係に戻ることになりました。
二人で中国語を頑張って勉強し合った懐かしい日々。
彼女の発音の美しさに心惹かれ、中国語を一生懸命勉強した。
授業の後、思い切って誘った大学近くのベローチェ。
参考書を交換しながら二人で対策した中検。
親に内緒でこっそり行った北京旅行。
一緒に行こうと言われた中国留学。
これまでの思い出が走馬灯のように蘇り、喉の奥がギュッとなって視界がぼやけた。
かすれそうな声をなんとか捻り出す。
「Tさんのおかげで中国語頑張れたよ、今までありがとう」
それではお聞きくだい。
王力宏(ワンリーホン)の「依然爱你(イーランアイニー」です。