「マー、マァ、マァア、マーッ」
あらすじ
2007年、就活を始めた牛は、唯一受験した新聞社の選考に落ちて挫折。その後海外で働くことを志し、海外営業職の内定を得た。仕事で使うことになる中国語との出会いを振り返る。
バックナンバー
私が中国語と出会ったきっかけは、大学一年生の第二外国語の授業でした。
フランス語とかスペイン語とかオシャレな言語を学んだみたい気持ちもありましたが、中国語を身につけておけば今後役に立つだろうと考え、第一希望を中国語、第二希望をスペイン語にしていました。そして、希望通り中国語を履修することができました。
中国語のクラスは同じ学部内の他の学科の人たちもいました。英語と違ってみんな初めて学習するので、特にレベル別に分けられていることもなかったように思います。
ご存知の通り、中国語は発音がとても難しいです。
特に声調という、音程のような音の上げ下げを正確に発音しないと全く通じません。
だから、まず声調の練習をたくさんやらされます。
「マー、マァ、マァア、マーッ」
声調は大きく分けて4種類あり、それぞれmā(一声)、 má(二声)、 mǎ(三声)、 mà(四声)のような記号がつきます。
この記号を見てどの声調になるのかを判断し、正確に発音できなければなりません。これは音楽的才能が求められており、できる人はすぐできるし、できない人は全くできません。
もちろん練習すればある程度できるようになりますが、向き不向きは確実に存在します。
声調はほんの少し違うだけで全然通じないし、逆に声調があっていれば、多少発音をミスしても通じることがあるくらい声調は大事です。
中国語を学ぶとよく出てくる例ですが、maだけで文章を作ることも可能です。
妈妈骂马吗?māma mà mǎ ma?
(お母さんは馬を叱りますか?)
このように、中国語は音がとても大切で、私は中国語の音に魅了されたのでした。
中国語の音って美しいな。
これを自由自在に繰り出せるようになったらかっこいいじゃないか。
最初はとても苦労しました。
声調は正しくないし、発音も難しいものがたくさんありました。それでも教科書に書いてある発音の方法で先生に何度も直されながら、少しずつ中国語に慣れていきました。
最初の段階では、声調記号を読むというよりは、音で中国語を覚えていました。記号=正しい声調になっていなかったからです。
記号を見ながら発音しても間違えるし、ナチュラルな速度では到底読めません。
だから教科書のCDを聴きながら、この単語はこの音だ、という具合に漢字を見て、その音を発音できるようにしていきました。(今思えば真っ当な学習方法だったと思います)
文章も一語ずつ発音するのではなく、ナレーションの音を完全にコピーして発音する。ということを繰り返しやっていました。
ある日、教科書の対話文をみんなの前で音読する機会がありました。
その授業の先生は、日本語が話せる中国人の王先生で、前から順番に当てて、音読をさせていきました。
音を外すとズッコケる仕草をするユニークな先生で、王先生はみんなから人気がありました。
しかし、第二外国語の授業なので、みんなまともに宿題をやってきていません。声調もめちゃくちゃで、まともに読める人はほとんどいませんでした。
先生はズッコケまくるどころか、愕然として「今の何語ですか?」とか言い出す始末です。
そして私の番がやってきました。
その時は声調記号を正確に発音できていませんでしたが、耳コピーしたセリフをスラスラ読み上げることだけはできました。
すると、ズッコケまくってた先生は目を見開き、私の席までやって来てこういいました。
「非常好!今の中国語は、中国人が聞いても完璧に聞き取れる、もしかして中国人ですか?」
と一人でパチパチ拍手を始めました。
あまりにも大袈裟なリアクションで戸惑いましたが、とても嬉しかったことを覚えています。
声調もまだ自分で正確に発音できないし、ただ耳で覚えただけだったのですが、これが私の大きな成功体験となりました。
あぁ中国語楽しいわぁ。
世界が一気に広がった気持ちになりました。
それからの中国語の勉強は、とにかく教科書の本文を全て丸暗記し、日本人の先生の授業では、ディクテーション(听写)の小テストが課され、それをこなしていくうちに中国語がどんどん理解できるようになっていきました。
前期も終盤に差し掛かり、掲示板でとある情報を目にします。
それは後期の中国語の授業についての内容でした。
前期の成績が良く、希望する生徒はさらにハイレベルの中国語を身につけられるインテンシブコースを履修することができるという内容でした。
乗るしかない、このビッグウェーブに。
前期のテストの成績も良かったので、インテンシブコースを履修することができました。
同じ学部の中国語が堪能な学生たちが集まるインテンシブコースはどんな感じなんだろう。
ワクワクしながら教室に入ると、元々同じクラスの顔馴染みメンバーがまず目に入ります。
「おぉ、そら牛は来るよなぁ」
一通り挨拶を終えて、辺りを見渡すと、見知らぬ顔ももちろんたくさんありました。
みんな中国語ができるんだろうなぁ。
その中に一人、栗山千明似のチャーミングな女の子がいることに気がつきました。
この中国語のクラスで、私は彼女に初めて出会ったのでした。