彼女は私にとっての阿拉木汗(アラムハン)でした。
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あらすじ
2007年、就活を始めた牛は、唯一受験した新聞社の選考に落ちて挫折。その後海外で働くことを志し、海外営業職の内定を得た。入社後は中国語を使うことになるが、牛の中国語人生を変えた一人の女性との出会いを振り返る。
「私、中国語の発音が好きなの。なんかすごくかわいくない?」
「うん、かわいい」
と中国語の音に魅了される彼女に私は魅了されました。
私も中国語の発音は美しいと思っていたので、思わぬ共通点に胸がときめきました。
こういうのを共通の価値観とか言うんでしょうかね。当時はよく分からなかったのですが。
定例ベローチェ会を重ねるうちに、徐々にTさんとの距離感を縮めていくことができましたが、どうしても気になることがありました。
彼氏がいるのか、いないのか。
栗山千秋と川島海荷を足して2で割ったような彼女ですから、彼氏がいないわけはないだろうとずっと思っていました。
でもこうして毎回ベローチェに来てくれるわけだし、決して自分のことは嫌いではないだろう。
そもそも彼氏がいたらこんなに相手してくれるわけはないのではないか。
これはワンチャンあるか。
意を決して聞いてみることにしました。
「Tさんって、彼氏いるの?」
「いるよ」
ガビーン
淡い期待は見事に打ち砕かれました。
「もしかして大学の人?」
「いや、高校で一緒だった人、あだ名はジャイアンっていうの」
ガビーン
この会話を聞いて愕然としたことをよく覚えています。
豪傑のような彼氏が彼女を守っていることを想像すると、これは勝ち目はなさそうだ、、と思うようにもなりました。
「他に誰か並んでいる人いますか?いなかったらここで待ってますんで、整理券ください、、」
くらいのテンションでチャンスの到来を待ち受けることにしました。
どんな一流プレーヤーでもミスはする。
その数少ないミスをものにできるかどうかが勝敗を分けるのだ。
こうしてジャイアンの存在に衝撃を受けつつもそのまま彼女とは交友を続け、整理券を握りしめたまま、チャンスを待ち続けることにしました。
記憶は定かではありませんが、確かその年の冬に初めて北京に行きました。
同じ中国語のクラスの男友達と生まれて初めての海外旅行です。飛行機に乗るのもそれが初めてでした。
北京出身だった徐先生のアドバイスを聞き、学校の教科書の「理香と王麗」で紹介されていた北京を巡る旅をしたのはなかなか面白かったです。
もう20年近く前の話ですが、冬の北京は極寒だったこと、自分たちの中国語がちゃんと通じたこと、北京大学の食堂で食べた謎の麺がとてつもなく不味かったこと、はよく覚えています。
駐在してからも何度も北京にはいきましたが、その度に感慨深い気持ちが蘇りました。
ここが私のアナザースカイ。
その旅行でTさんへの貢ぎ物(お土産)も買いました。
特に記憶に残っているのは、CDショップで当時流行っていそうな歌手のCDを何枚か買って帰ったことです。
もちろん誰が流行っているかわからなかったのですが、売れてそうなCDを適当に選びました。
その中に韩雪という歌手の「雪の華」カバー曲「飘雪」が入っていて、この歌は今聞いても素晴らしいと思います。
お聞きください
これを聞くとあの時の甘酸っぱい想い出が走馬灯のように蘇ります。私の中国語テーマソングの一つです。
旅行から帰ったあとの授業では、徐先生から北京の思い出を授業で中国語で説明するように求められました。
それからTさんにお土産を渡すために会う約束をしました。
「これ、お土産のロレックスの時計。人気っぽいCDも買ってきたから聞いてみて。中国語がちゃんと通じて面白かったし、値下げ交渉とかもちゃんとできたよ。Tさんも行ってみたら?」
「ありがとう。北京いいなぁ、私も行きたいなぁ、、」
まさかTさんと一緒に北京にいくことになるなんてその時は思ってもみませんでした。