私は以前どんな仕事をしていたのか(第14回)

「二人で一緒に写真を撮るのは禁止ね」

あらすじ

2007年、就活を始めた牛は、唯一受験した新聞社の選考に落ちて挫折。その後海外で働くことを志し、海外営業職の内定を得た。入社後は中国語を使うことになるが、中国語を一生懸命勉強したのは、大学1年の時に出会ったTさんのおかげだった。そのTさんと二人で北京へ旅行へ行くことになったお話。

バックナンバー(中国語と彼女編)

Tさんを北京旅行に誘ったら、想定外の快諾を得られ、二人で北京旅行をする運びとなりました。

しかし、当時は大学2年生だったので彼女の親も男と二人だったら北京に行くことを許さなかったでしょう。

しかし、彼女は親には女友達と一緒に行くと嘘をついて、私と一緒に旅行してくれることになりました。

だから、私と一緒に写っている写真があると都合が悪いのです。

「二人で一緒に写真を撮るのは禁止ね。」

「わかった。証拠があるとまずいからね」

ということで、基本的に彼女との中国の写真はありません。

そのため、この思い出は私の幻想とか妄想だったんじゃないか、、と思うこともあります。

それでもいくつか明確に覚えていることがあるので、一緒に北京に行ったのは間違いありません。

印象に残っている思い出の一つは、空港に到着してからホテルに向かう時に白タクを使ったことです。

白タクとは営業認可を受けていないタクシーのことで、空港でタクシーを並んでいる時、おじさんに声を掛けられるのですが、ボラれたり、危ない目に合ったりするので、基本的には乗るべきではありません。

しかし、当時の私は状況をあまりよく知らなかったのと、タクシーをあまり待ちたくなかったので、その白タクおじさんについて行ってしまいました。

Tさんは「白タクは乗るな」という情報を事前に得ていたため、頑なに首を横に降り続けていましたが、私が勝手に行ってしまったため、「もう行くしかない」と覚悟を決めた、と後日語ってくれました。

私も途中でちょっとやばいかもな、という雰囲気を感じましたが、ここから引き返すのも微妙なので、意を決して白タクに乗り込みました。なぜかおじさんが複数人いて、乗客は私たち二人だけです。

これはやっぱりやばいかもしれない、、と急に不安になり始めました。

このまま変なところに連れて行かれて、現金を全て取られ、私がボコボコにされて、彼女が連れ去られたらどうしよう、、、

なんてことを考えていたら、とてつもなく不安になりました。彼女も全く同じことを考えていたようです。

行き先はスイスホテル北京という4つ星くらいのホテルで、スイスの発音が激ムズだったのでよく覚えています。

この行き先だと150元くらいと言われていたので、そんなボラれているわけではないと判断しました。(ボラれるときは大体そうだ)

しかし、夜だったので空港からの道は暗く、本当にこの道が合っているのかわかりません。

運転席と助手席にいるおじさんは、こそこそ何かを語り合っており、当時の中国語力では彼らが何を話しているのか理解できませんでした。

するといきなり「加油(頑張れ)」と言われ、メインの道路から外れて、暗い道の方に入って行きました。

「加油?」

あぁやばい。

このままどこかに連れて行かれて、金を巻き上げられるんだ。

きっと、辛いめに遭うから「頑張れ」なんだな。

やれやれ。

現金を全てここで失ったらせっかくの旅行が台無しだ。

最悪、私はどこかに埋められるか、売り飛ばされるかもしれない。

それよりも彼女に危害が及ぶのが心配だ。それだけは何があっても避けなければならない。

この時のために少林寺拳法でも習っておくべきだった。

あぁ、、、

と良からぬ考えが頭をよぎります。

そして、車はメインロードから少し外れたガソリンスタンドに入って行き、おじさんは言いました。

「加油(給油する)」

ということで、ただ単に途中で給油するためにガソリンスタンドに寄っただけでした。

加油は「頑張る」以外にも「給油する」の意味があります。

はい。

それ以降はどこにも寄り道せずに目的地のスイスホテルに辿り着き、料金も当初言われていた150元だけで特にお金をたくさん取られることもありませんでした。

ホテルに着いた安堵感からか、運転手のおじさんも親切な人たちのように見えました。

こうして無事に私たち二人はホテルに辿り着きました。

「なんで、勝手に行っちゃったの!めちゃくちゃ怖かったよ、、タクシー会社のタクシー使えって先生言ってたじゃん」

「え?そうだったっけ?」

と私は強がって言いました。

あの時は失敗したと思っていましたが、こうして当時のことを思い出せるので、とても良い思い出になりました。

1日目は夜遅かったので、翌日から北京散策を始めました。

次の日に行ったのは、故宮(紫禁城)です。

あまり記憶が定かではないのですが、故宮の近くに高台のような登れるところがあって、そこから故宮を見下ろせました。

今調べてみるとそれは景山公園だったかもしれません。

公園の頂上に着くと眼下に故宮が見え、絶好の写真スポットになっています。

そこではポラロイドカメラで写真を撮り、その場で簡単なアルバムを作ってくれるボロい商売をするおじさんたちがいます。

そこで彼女は突然言いました。

「ねぇ、一緒にここで写真撮らない?この人に撮ってもらおう?」

「え?高くない?写真は一緒に撮らないんじゃなかったの?」

「うん、この写真だけは一緒に取ろう。絶対に自分しかわからない場所にしまっておいて、同じ写真を二人でバレないように持っておくの、誰にも見つからないようにね。」