食べるプレッシャーと戦った少年の恋

小学校低学年の頃、給食が恐かったことがある。なぜなら全部食べるまで教室に残されてしまうからだ。食べなきゃというプレッシャーが、食欲を減らすことをその時に学んだ。

僕はどうしてもミニトマトを食べることができなかった。

ミニトマトが大好きな人がたくさんいることを知っているし、その人たちから見たら信じられないかもしれない。

しかし、あの可愛らしい球体からほとばしる独特の風味と触感が生理的に受け付けられなかった。

ミニトマトが嫌いな人なら分かるだろう。

毎月献立表を見て、次はいつミニトマトが出るのか確認しては憂鬱になった。

食べ残しは厳禁。

嫌いなものも絶対に食べるように。

これが当時の風潮だった。

嫌いなものを我慢して食べなければならなかったのは、苦痛以外の何物でもない。大きな精神的プレッシャーが小さい体にのしかかってきた。

ミニトマトが給食に出たある日のことだった。

いつもならなんとか頑張ってミニトマトを食べることができたが、その日はどうしてもだめだった。

身体の受け入れ態勢が一向に整わない。

トマトには悪いが、口に入れることを想像するだけで吐き気を催すレベルである。

しかし、給食を全部食べ終わるまで教室に残されて、昼休みに外に遊びに行けないルールだ。

僕はミニトマトと共にぽつんと教室に取り残された。

このままでは絶対に完食できない。

のどがぎゅっと締まって苦しくなった。

いっそのこと捨ててしまおうか。

またはランドセルに隠して持って帰って食べたことにしようか。

そんなずるい考えが頭をよぎる。

しかし、バレた時のことを考えたり、罪の意識があってできなかった。

そのとき教室に一人の女の子が入ってきた。

「牛君~、何してんの~、外行かないの~?」

いつも一緒に遊んでいる夏子だった。

「これ食べ終わるまで外行っちゃだめって、先生が、、、」

震える声で夏子の顔を見つめた。

「えぇ!ミニトマトじゃん!なんで食べれないの?私大好きなのに、、そんなの一口でパクっでいっちゃいなよ、パクっ!て」

「いや、それができないんだよ、匂いが嫌いで、無理なんだ、、」

「だったら、捨てるか、持って帰っちゃえばいいじゃん、誰も見てないよ、早く遊びいこっ」

「いやバレたら先生に怒られるし、そんなことしたらだめでしょ、、」

「もぉ~」

夏子が私の席に早足で近づき、となりに座った。

じっとミニトマトを見つめる僕。

すると、夏子の手が急に視界に入り、ミニトマトを掴むや否や、それらは彼女の口へ放り込まれたではないか。

「!!!」

「んふふふふ」

呆気に取られる僕。

「もぐもぐもぐ、んふふふふ」

夏子の満面の笑み。

「あぁ、美味しかった!はいっ、これあげるっ」

と僕に手渡されたのは、二つのミニトマトのヘタだった。

「はやく片づけて外行こっ!」

僕は夏子からもらったミニトマトのヘタを強く握りしめ、ポケットにそっとしまった。

 

いかがでしたか。

みなさんも似たような経験があるのではないでしょうか。

え、ない?

夏子とミニトマトをめぐる淡い恋物語でした。

今朝のヤフーニュースでこの記事を見てふと思い出しました。

「会食恐怖症」をご存じですか。人前での食事に恐怖と不安を感じ、吐き気などの体調不良を引き起こす社交不安症のこと。学校給食や部活動での「完食指導」が、発症の引き金となるケースが多いという。当事者を支援する団体は「子どもに無理やり食べさせないで」と訴えている。

ほんとにその通りだと思いました。

確かに食べ物の大切さや偏食をしないようにすることは大事です。

しかし、プレッシャーをかけすぎるのもよくありません。

この時の思い出のおかげでミニトマトは今でも苦手です。

一種のトラウマみたいになってしまっていますが、「会食恐怖症」というのがあるのは知りませんでした。

小さい頃僕は食が細かったので、完食するように指導されるのは辛かったです。

そして、絶対に食べろ、と言われるとそのプレッシャーで逆に食べられなくなっちゃうんですよね。

めちゃくちゃ分かります。小さい頃、給食が憂鬱だったときがありました。

世の中にはそれで苦しんでいる人もいることをこの記事を読んで知りましたし、私もそういう時期があったなぁと共感できました。

「~しなきゃ」と思うと、逆にできなくなってしまうことがあります。

「完食しなきゃ」と思うと逆に食べられなくなったり、「寝なきゃ」と思うと逆に寝られなくなる。

このプレッシャーが精神的苦痛になってしまうんですね。

そうすると普段できることすらできなくなってしまいます。

この記事ではどのように会食恐怖症を克服したかが書かれていました。

アルバイトのまかないが出た時に会食恐怖症であることを打ち明けた際に「無理せず食べられる分だけ練習と思って食べたらいいよ」と言われたことが克服のきっかけになったそうです。

症状が出るそもそもの原因、「食べなきゃ」とか「○○しなきゃ」っていうのが自分にプレッシャーをかけて食べられなくなっているので、「食べなくてもいいや」とか「○○でもいいや」と変わることで、食べられるようになるんですよね。考え方をどうやって変えるかがすごく大事です。

これはとても大事な考えだと思いました。

「~しなきゃ」から「~しなくてもいいや」への転換です。

これでだいぶ気が楽になると思います。

「会社行かなきゃ」から「会社行かなくてもいいや」

「資料が終わらない」と思っている時に「できる分だけ練習だと思ってやったらいいよ」なんて言われたら、気が楽になって前に進めそうな気がしますね。

もしかしたら「~しなきゃ」と思って自分で自分を苦しめている人がいるかもしれません。

そんな時は「~しなくてもいいや」とか「無理せずできる分だけやってみる、あとは知らん」位のスタンスを保持し続けるのがよろしいかと思います。

ミニトマトを食べてくれた夏子は今頃どうしているだろうか。

ミニトマトを見ると、満面の笑みで私の問題を解決してくれた夏子のことを思い出します。

トラウマと同時に甘酸っぱい記憶を思い出させてくれるのでした。