「ご職業は何ですか?」と聞かれるとドキッとする。
私は大体一か月に一回散髪に行く。
行く時間は必ず平日の10時。
受付のお姉さんとは、顔見知りになり、受付でいちいち名前を言わなくて済む。
「牛さま、お待ちしておりました」
次回の予約時間も決めてくれるようになった。
私は美容師の指名はせずに、いろいろな人に切ってもらっている。
その方がカット技術の善し悪しやその人独自のスタイルが分かって楽しいからだ。
また、その店のすべての美容師に私の特性を掴んでもらい、誰が切ってもそこそこいい感じに仕上がるようになって頂きたいという厚かましい願いもある。
既に何周もローテーションできたので、誰が切ってもいい感じに仕上がるようになった。
誰が来ても「いつも通りで」が通用する散髪は素晴らしい。
私が指名をしたくないのは他にも理由がある。
それは、指名をすると、美容師とそれなりに深い関係にならざるを得ないことだ。
例えば、私は一人の美容師と20年来の付き合いがある。
高校生の時Progressで出会った美容師に30歳を過ぎてからもたまに切ってもらう。
当時はイケイケお姉さんだった彼女も今は独立して美容院を経営している。
もちろん地元を離れてしばらく会えない機会はあったが、帰省の度に訪れ、近況を報告する。
牛君すごいね、牛君すごいね、と行くたびに褒めてくれた。
坊主なのに「すいてください」と言った高校生の私を彼女は暖かく迎え入れてくれた。
もしかしたら彼女が家族以外で最も私のことを知ってくれている人なのかもしれない。
高校からの私の人生を全て知っている人はそう多くない。
どんな仕事をしていて、結婚をしているのか、趣味はなんなのか、などなど。
美容師は様々な人生を抱えているのだなぁと思った。
日々の何気ない会話で自分の生活が少しずつ掘り下げられていく。
職業の話が出ると緊張する。
もちろん「ご職業は何ですか?」と直接的に聞かれることはない。
しかし、間接的に聞かれることはある。
「今日はお休みなんですか?」は、そのプロローグだ。
「えぇ、まぁ、そうなんです、えへへ」で、その先は何も言わない。
私が通っている美容院では、月、火、水、木、金を全て制覇したので、月~金まで休みの男だと認定されているだろう。まぁ良い。
仕事のことを聞かれた時のために私はいくつか答えを用意している。
- 会社員(嘘)
- ライター
- ブロガー
- フリーター
- ランナー
- 投資家
- 投機家
その場かぎりで終わりそうなケースは「会社員」という嘘をついてしまうことがある。
しかし、美容院では通用しない。平日の10時に規則正しく現れることがバレているからだ。
そんな会社員なら今でも続けている。
ちなみにランニングの帰りに立ち寄るコンビニのお姉さんは、私の職業を「ランナー」だと思っている。
毎日のようにランニング後に立ち寄るので「走るのがお仕事なんですか?」と言われ、「はい」と答えてしまったからだ。
身近な人に「今何やってんの?」とか聞かれた時は「執筆」と答えることにしている。
そうすれば全てが平和に収まる。
このように私は職業を聞かれると消耗する。
脳みそに負荷がかかる。
スティーブジョブズのタートルネックのような答えが欲しい。
先日見たテレビ番組でカラスの雑誌を特集してました。その会合でカラス好きの小学生の女の子がこんなこと言ってたんですね。
「カラスが好きと言うと、変な感じになるから、とりあえず猫が好き、と言ってる」
分かりますか?
私も今の自分の状況を説明するのがめんどくさいから「とりあえず会社員」とか言っておきたくなります。そうすればみんな安心するからです。
このブログを読んでくれている諸君はもう既に私の職業をご存知のことだろう。
その通り
小説家だ。