私はHSBC香港で米国株を運用していますが、日本居住者が海外口座で運用するメリットはほとんどありません。しかし、ある条件を満たせば人によってはメリットが得られる可能性があります。
結論から言うと、そのメリットとは日本非居住者になってキャピタルゲインを非課税にするというものです。
黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 (講談社+α文庫)にそのスキームが紹介されているので引用します。
非居住者になってしまえば、その瞬間に海外所得に対する納税義務は消失する。香港やシンガポールでは金融資産の譲渡益や利子・配当所得はもちろん、国(域)外で得た所得に対しても課税されない。
(中略)
日本国内に居住していれば全世界の所得に対して申告・納税の義務が生じるが、非居住者であれば海外で得た所得を課税対象から外すことができる。
つまり、非居住者になることが重要です。しかし、ただ単に出国すれば非居住者になれるかというとそんな単純ではありません。
以下は国税庁ホームページからの引用です。
我が国の所得税法では、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。
「住所」は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。
したがって、「住所」は、その人の生活の中心がどこかで判定されます。
ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、職務内容や契約等を基に「住所の推定」を行うことになります。
以下はSBI証券からの引用です。
非居住者の定義
- 外国にある事務所(本邦法人の海外支店等及び現地法人並びに国際機関を含む)に勤務する目的で出国し外国に滞在する者。
- 2年以上外国に滞在する目的で出国し外国に滞在する者。
- 本邦出国後外国に2年以上滞在するに至った者。
- 1年以上にわたり日本以外に居住する者。
- 期間の定めのない海外転勤、海外留学。
- 上記に掲げる者で、事務連絡、休暇等のため一時帰国し、その滞在期間が6ヶ月未満の者。(但し、上記に関わらず、本邦の在外 公館に勤務する目的で出国し、外国に滞在する方は、「居住者」として扱われます)
SBI証券より
例えば、会社勤めで海外出向した場合などは基本的に非居住者扱いになります。
海外口座でキャピタルゲインを積み上げて、非居住者になった段階で利益確定をするというのが有効な選択肢となります。
日本国内の証券会社じゃできないの?と思う人もいるかもしれません。しかし、日本国内の多くの証券会社は日本非居住者の取引ができないよう制限しているため注意が必要です。
SBI証券
当社では日本国外で金融商品取引業務を行う許可(免許)などを海外の監督官庁等から得ておらず、居住国の法令諸規則に則った対応を行うことはできません。
SBI証券より
楽天証券
国内非居住者の場合、弊社でお取引を行うことはできません。
そのため、国外に転出なさる場合、弊社でお預りしているご資産をなんらかの方法(売却、出金、他社へ移管等)により、すべての残高をなくしていただき、総合取引口座の解約のお手続きをお願いいたします。
日本非居住者となると、原則取引ができないとされているので、海外から取引すると後々面倒なことになるかもしれません。
もう一つ注意点があります。それは日本出国前に株などの有価証券が1億円を超えていないかという点です。
平成27年度税制改正により、国外転出時課税制度が創設され、平成27年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税されることとなりました。
有価証券が1億円以上あると出国時に課税されてしまいます。詳細を調べると、課税されない抜け道はあるようですが、できればこれに該当する前に出国したいものです。今は1億円ですが、今後対象資産額がさらに下がる可能性もありえます。
さらに海外口座で米国株を運用する時に注意するポイントがあります。それは、配当にかかる外国税率です。日本居住者の場合、租税条約があるので税率10%で、確定申告で一部還付を受けることができます。
しかし、租税条約がない場合は外国税が30%かかります。中国に住んでいた時は実際に配当から30%引かれてました。しかもこれを取り戻すすべはありません。(というか分からなかった)つまり、日本で運用した場合の外国税10%+申告分離課税20%とほとんど変わらないため、米国株の配当においてはメリットがないのです。
これに対する一つの提案は、英国ADRや外国税のかからない米国株(フィリップモリス)を中心としたポートフォリオにシフトさせることです。こうすることで配当課税を(ほぼ)0にすることができるので配当利回りが上がります。
英国ADRはHSBC、ロイヤルダッチシェル、BP、ボーダフォンなど名だたる高配当銘柄が多く存在しています。平均4~5%の配当を得ることも難しくないでしょう。もし1億円近くの資産があれば、高配当銘柄中心でポートフォリオを組むことで年間400~500万円の配当を受け取ることができます。
以上のように、日本居住者が海外口座で株を運用するメリットはほとんどありません。しかし、将来非居住者になりうる人は一つのオプションとして有効です。海外とは縁がないと思っている人も知識だけは仕入れておくと良いかもしれません。
これらは自分で調べたものなので、もしかすると認識違いがあり得ます。また今後の税制改正により状況が変化することも想定されますので、実行時はご自身で専門家に相談するなど自己責任でお願いします。
まとめ
- 非居住者はキャピタルゲインでメリットあるかも
- 出国前に株資産が1億円超えないように
- 米国株のインカムゲインに対してはメリットなし
- 非居住者になれるオプションを探しておこう
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