タワーマンションには多くの開かずの扉が存在します。
ちなみに私はまだタワーマンションに住んでいます。
いろんな設備が充実していて住みやすいし、面白い人が一杯いて私を飽きさせないからです。
というか無職こそタワマンを有効活用できるのではないかと思ってます。
キッズルームにある世界文学全集を読破するだけでもあと1年はかかるでしょう。
毎朝ロビーにある新聞4紙に目を通す習慣も身に付きました。
天空のラウンジから富士山を眺めつつ、ブログを書きます。
トレーニングルームでは、美女が開脚ストレッチをしていて、僕は胸筋に負荷をかけ続ける。
そして、不思議な世界を体験できるのです。
このようにタワマンは私を成長させてくれますが、その分家賃が高いのは否めません。無職である限りこれを続けるのは難しいでしょう。
しかし変な話ですね。
入居するときは大手企業のサラリーマンでも門前払いされたこともあるのに、今こうして謎の無職が住み着いていても何も言われません。
一方、今から新しい住処を探すのは結構大変なはずです。家賃5~6万円のとこでも契約できるか分かりません。
資産3,000万円あったら50年分相当の家賃に匹敵するのですが、それでもだめなとこはだめでしょうね。
自分は全く変わってないのに全く別の世界にいる人間のようになってしまうとは。
なんと不条理な世の中よ。
というわけで今はこの生活を楽しみつつ、次の住処を探している最中でございます。
そんなタワマンに住んで1年が経過しましたが、いまだに足を踏み入れたことのない未踏の領域があります。
これはいったい何の部屋なのか。
いつも鍵がかかっていて居住者はそこにアクセスできません。
しかし、先日警備員がそこから出てくるタイミングに遭遇しました。
警備員は足早にその場を立ち去っていきましたが、その隙を突いてドアが完全に締まる前に足を滑り込ませ、ドアが閉まるのを阻止したのです。
クリア。
そして辺りを見回して誰にもばれないようにこっそりと中に侵入していきました。
そこにはエレベーターが一基、その隣に扉がありました。人はだれもいません。仄暗い完全な静寂が支配していました。
エレベーターの隣にある扉を静かに開けると灰色の無機質な階段が目の前に姿を現しました。
なるほど、これが非常階段か。
この扉は非常用エレベーターと階段につながる扉だったようです。
どのタワーマンションもそうなのか分かりませんが、私が住んでいるところは非常階段が開放されていません。
低層階に住んでいるので階段を使った方が便利ですが、それができないので不満に思っていました。
開放しない理由でもあるのだろうか。
しかし、この階段はだれもいないのでとても不気味です。そういえばさっき出会った警備員の顔は妙に青白かったな。
それはまるで別の世界につながっている階段のような気がしてきてとても気味が悪くなってきました。
ここに辿り着けたのはいいけど、ここから出られなくなったらどうしよう。
「夫はそこで消えてしまったのです。煙のように。それ以来まったく音沙汰はありません。24階と26階の階段の途中で、痕跡も残さず、私たちの前から姿を消してしまったのです」
「どこであれそれが見つかりそうな場所」でより引用 東京奇譚集 (新潮文庫)
こんな村上春樹的なことが起こっても不思議ではありません。
でもここまで来たら引き返せない。果てしなく続く階段を一段ずつ上っていきました。
ようやく部屋の階にたどり着き、目の前の扉を開けようと試みました。
ガチャ、ガチャ、ガチャ
いくら押しても扉が開きません。
しまった。。
まさか閉じ込められたのか。
おいおいおい、どうやってここから脱出したらいいんだ。警備員は次いつ来るんだ。
でもここは居住者が入らないはずだからそんな頻繁に警備員は来ないかもしれない。
というかさっきのほんとに警備員だったのか。
まさかここに導き入れるための、、、
お化けじゃないよね?
それ、めちゃくちゃこわいやん。
冷静になれ、押してダメなら引いてみろ。
ガチャリ。開いた。あぁ引くタイプね。
するとそこはエレベーターが一基、そしてまた別のもう一つの扉が姿を現しました。
もう扉が怖いよ、次はどこに繋がっているんだ。今度は羊男が現れるのか。
無音が鼓膜を圧迫する。
ガチャリ。
そこにはいつもの見慣れた廊下が広がっていました。ちょうど自分の部屋の目の前に出ることができたようです。
おぉぉ、ここの扉に繋がっていたのね。
なんかめちゃくちゃ遠くて時間がかかった気がしたけど、ここはいつもの自分の部屋だ。間違いない。
こうしていつもの見慣れた景色を見てようやく安堵感に包まれました。あぁよかった。
しかし、奇妙なことが起こりました。
いつも通り部屋の鍵を開けようとしても開かない。逆に鍵がかかってしまったのです。
鍵かけ忘れてたんかな。
いや、出てきたときは間違いなく鍵をかけたはずだ。
やれやれ。
これまで一度も鍵をかけ忘れたことなんかなかったはずなのに。
ガチャリ。
目の前の扉がゆっくりと開き始めた。